新書・文庫で読む教育社会学ブックリスト
2000年代の終わりから2010年代にかけて,教育社会学に関係する新書が充実した。社会学一般だとどこから入門していいやらという感じである一方,教育社会学については新書だけである程度主要なトピックを押さえられるようになってきたと思う。新書だけ読む新入生ゼミなどもできそう。
そこに文庫も加えて,教育社会学に新書・文庫を通して入門するためのブックリストを作ってみた。人に勧めたりするときのために一度整理しておきたかったのと,コメントをつけることを目的にして読んだ方が勉強になると思ったので。また,公開しておけば,教育(社会)学に関心を持った大学1,2回生や,教育学部の入試で小論文対策が必要な高校生などにも多少は有益な情報になるかもしれない。
大半は一度読んでいるが内容をあまり覚えていないものも多いので,読み直したものからコメントをつけていきたい。思い出したり新たに刊行されたりするたびに追加していくつもり。教育社会学が専門ではない人の著作も教育社会学的なテーマに関係するものであれば入れている。
《教育社会学入門》
苅谷剛彦(1998; 文庫版2005)『学校って何だろう』ちくま文庫
《戦後日本の教育と社会》
木村元(2015)『学校の戦後史』岩波新書
本田由紀(2014)『もじれる社会』ちくま新書
もじれる社会: 戦後日本型循環モデルを超えて (ちくま新書)
- 作者: 本田由紀
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/10/06
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (9件) を見る
小熊英二(2019)『日本社会のしくみ』
《メリトクラシー・能力観》
中村高康(2018)『暴走する能力主義』ちくま新書
本田由紀(2020)『教育は何を評価してきたのか』
苅谷剛彦(2002)『教育改革の幻想』ちくま新書
小針誠(2018)『アクティブラーニング』講談社現代新書
《教育格差・階層格差・学歴社会》
松岡亮二(2019)『教育格差』ちくま新書
直球タイトル。350ページ超えで新書にしてはかなり分厚い。近年の格差研究を網羅的に扱っており,研究レビューとしても有用だと思う。ただ,230ページくらいまで既存の研究の知見を計量データとともに淡々と提示しており,かつ第2章から第5章まで幼児教育→小学校→中学校→高校と順番に扱っているために同じような話が何度も出てきて読んでいて結構しんどい。新書向きの構成ではないような気がする。ある程度このトピックに馴染みがあると,どこに着目して読み飛ばせばいいのかわかるが,そうでないと読み通すのはつらいかもしれない。初学者は第2章から第5章までは章末のまとめを先に読んで,そこから各章の内容に戻るか,あるいは第6章,第7章に先に進んでしまうのがよいかも。1,2回生で教育格差に関心のある人に勧めるかといわれるとちょっと悩む。
苅谷剛彦(1995)『大衆教育社会のゆくえ』中公新書
戦後日本において,「大衆教育社会」がいかにして成立していったのかを示している。本書の刊行以後,すなわち90年代後半以降になると格差の問題はよく取り上げられるようになったわけだが,それ以前の日本においてなぜ階層問題が等閑視され,学歴社会という視点が主になっていったのかを描いている。第5章の「能力主義的差別教育」についての考察もおもしろい。
大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史 (中公新書)
- 作者: 苅谷剛彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1995/06/24
- メディア: 新書
- 購入: 4人 クリック: 109回
- この商品を含むブログ (76件) を見る
苅谷剛彦(2009)『教育と平等』中公新書
吉川徹(2009)『学歴分断社会』ちくま新書
大卒と高卒という学歴の「分断」に焦点を当て,主に階層再生産の話をしている。親の階層と子どもの教育達成と子どもの階層の関係や,大学進学率上昇期と停滞期における学歴再生産の位置づけの違い,他の論者による格差論の解説など,「格差論/研究」論的な性格もあり,入門によいかも。
吉川徹(2018)『日本の分断』光文社新書
日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)
- 作者: 吉川徹
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/04/17
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (3件) を見る
山田昌弘(2004; 文庫版2007)『希望格差社会』ちくま文庫
希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)
- 作者: 山田昌弘
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 89回
- この商品を含むブログ (81件) を見る
《受験》
竹内洋(1991; 文庫版2015) 『立志・苦学・出世』講談社
受験生文化の社会史。明治30年代までの,まだ「受験」という言葉が「試験を受けること」以上の意味を持っていなかった時代を「前受験の時代」,それ以降の,「受験」をめぐる物語や規範が成立するようになった時代を「受験のモダン」,昭和40年代以降,受験が脱「マジ」化してからの時代を「受験の脱モダン」としている。本書の分析は「受験のモダン」,とくに戦前に集中している。受験雑誌や講義録などの受験文化を支えた小道具や,「受験生」としての規範意識などについて社会学的な分析を加えていておもしろい。日本人は受験に対して愛憎入り交じった複雑な感情を持ち,様々な意味づけをしてきたが,本書を除けば受験をめぐる主観的な意味世界を描く研究はほとんどないといえるので,そういう意味で貴重かつパイオニア的な研究。
《公教育》
中澤渉(2018)『日本の公教育』中公新書
寺沢拓敬(2019)『小学校英語のジレンマ』岩波新書
《学校問題・いじめ》
内田良(2015)『教育という病』光文社新書
教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」 (光文社新書)
- 作者: 内田良
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/06/17
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (33件) を見る
森田洋司(2010)『いじめとは何か』中公新書
内藤朝雄(2009)『いじめの構造』講談社現代新書
土井隆義(2008)『友だち地獄』ちくま新書
《育児・家庭教育》
広田照幸(1999)『日本人のしつけは衰退したか』講談社現代新書
《労働・キャリア教育》
本田由紀(2009)『教育の職業的意義』ちくま新書
本田由紀・内藤朝雄・後藤和智(2006)『「ニート」って言うな!』光文社新書
児美川孝一郎(2013)『キャリア教育のウソ』ちくまプリマー新書
《高等教育》
天野郁夫(2017)『帝国大学』中公新書
《教養文化》
竹内洋(2003)『教養主義の没落』中公新書
教養主義研究の最重要基本文献。 本書が刊行されて以降,教養主義を扱う研究が増加したが,ほぼ必ずといっていいほど本書に言及している。旧制高校と中心としたエリート学生文化としての教養主義の特徴と歴史的変遷を描く。なぜ,いかにして旧制高校や1960年代頃までの大学で教養主義が栄え,「没落」したのかを分析している。秀逸なネーミングと文学作品や自身の実体験をもとにした面白いエピソードが竹内洋の著作の特徴。ただ,面白く読まされるが,章立てが時代順になっておらず,構成も一見してわかりにくいので,そういう本に慣れていないと読み終わった後に「面白かったけど結局何の話だったんだ?」となってしまうかもしれない。
福間良明(2020)『「勤労青年」の教養文化史』岩波新書
佐藤卓己(2008; 文庫版2019)『テレビ的教養』岩波現代文庫
《知識人》
竹内洋(2005)『丸山眞男の時代』中公新書
竹内洋(2012; 文庫版2018)『清水幾太郎の覇権と忘却』中公文庫
《海外の教育》
竹内洋(1993)『パブリック・スクール』講談社現代新書
パブリック・スクール―英国式受験とエリート (講談社現代新書)
- 作者: 竹内洋
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/02
- メディア: 新書
- 購入: 2人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
苅谷剛彦(2004; 文庫版2014)『教育の世紀』ちくま学芸文庫
《子どもの貧困》
阿部彩(2008)『子どもの貧困』岩波新書
阿部彩(2014)『子どもの貧困Ⅱ』岩波新書