予備校講師のiPad Pro活用法
iPad Pro活用法第2弾で,iPad Proを予備校での受験指導にどのように活用しているかを書きます。第1弾の研究・勉強編もあわせてご覧ください。
教材を管理する
これが一番大きい。過去問や参考書,自作した教材などをすべてPDF化し,iPadで一括管理している。いちいち参考書を授業に持っていくのは重いし,急に別の教材が必要になることもあるし。参考書類はすべて裁断してPDF化している。DropBox等のクラウドで管理すると,予備校で印刷することもできるのも便利。GoodReaderだと偶数ページと奇数ページのどっちが左側に来るかをデータごとに変えられるので便利。
授業準備をする
授業の準備のために,教材を見ながら辞書を引いたり文法書を参照したりするわけだけど,その際もiPadだとやりやすい。ノートアプリと辞書を二画面で表示して,教材の本文にApple Pencilで書き込んでいる。あとで書き直したり,PDF化して保存したりすることもできる。
辞書を引く・見せる
これは英語のようなの教科に限定されるが,受験指導でも物書堂のアプリは大活躍する。上記のように授業準備の際に使うこともあるし,授業中に生徒からの質問に答えるためにその場で辞書を引くこともある。また,生徒に辞書の読み方を教えるときに画面ごと見せることもあるが,その際も画面が大きい方がよい。物書堂からは『ウィズダム英和・和英辞典』,『ジーニアス英和・和英辞典』,『オーレックス英和・和英辞典』がリリースされているので,生徒が使っている辞書ならば大体押さえられている。また,『ランダムハウス英和大辞典』や『リーダーズ英和辞典+リーダーズ・プラス』を持っておけば,マイナーな用法でもだいたい載っている。英作文の指導には『オックスフォード 英語コロケーション辞典』も役に立つ。物書堂はすごい。
採点・添削をする
小テストの類を採点することは多いが,予備校に行かない期間が長くなると生徒にすぐに返却できなくなる。そこで,アプリで自分でスキャンするか,教務課の方にお願いしてスキャンしてもらってPDF化し,iPadでApple Pencilを使って採点して,メールでそれを送って印刷して返却してもらうという手がある。教務の方にお手数をおかけすることになりますが...
教室に持ち込める
iPadでできることの一部はiPhoneでもできるが,教室でiPhoneをぺちぺちと触っていたら,生徒から「あいつ何授業中にスマホいじっとんねん」と思われてしまう。一方で,iPadだとなぜかそうは思われないどころか,なんならIT機器を活用している仕事のできる人,みたいに思われることさえある。この点は非常に重要で,以前教育実習に行った際も,iPadの使用については「ICTの活用」という位置づけでまったく問題なく受け入れられた。以前所属していた予備校では保護者面談に講師も参加することになっていて,そこでもiPhoneをいじっていたら顰蹙を買うだろうが,iPadなら何の問題もなかった。iPadはすごい。
大学(院)生のiPad Pro活用法
2017年に第2世代iPad Pro(12.9インチ)を購入して現在まで使用している。結構高かったが,本当に買ってよかったと思っている。音楽をつくったり絵を書いたりはできない人間なので,用途は主に勉強・研究と受験指導である。受験指導についてはまた別で書くことにして,ここでは大学での勉強と研究においてiPad Proをどのように使用しているかを述べる。もちろん分野によって色々事情の違いはあるだろうけど,買おうかどうか悩んでいる人には参考にしてもらえるのではないかと思う。学部生にもおすすめ。大学生活がすばらしくなります。
ちなみに,現在iPad Proには12.9インチの他に11インチもあるが,絶対に12.9インチの方がいいと思う。というか12.9インチを買わないならiPad Proに何を期待してるんや?という話。画面のでかさは善なので。12.9インチ買わないならいっそiPad Miniを買えばええんやで。iPad Airでもアップルペンシルが使えるらしいが,そんなことはどうでもいいのでiPad Pro12.9インチを買いましょう。
あと買ったら画面保護フィルムをペーパーライクのものにするのがおすすめ。画面が少しざらざらになって書きやすくなる。タブレットによくある画面をつるつる滑る感じがなくなる。画面がざらざらになった分ペン先の消費は少し早い気がするけど。
ちなみに自分の師匠(指導教員・わりとデジタル弱者)にも勧めたら関心を持ってもらえて購入した。でも使い方がわからなくなってドラマを見る専用の機械になったらしい。
論文を読む
研究ではこれが一番重要な活用法でしょう。12.9インチだとほぼA4サイズで,ラップトップのディスプレイと違って縦画面で表示できるので論文を読むのに最適。ちょっと気になったな,くらいの論文でも印刷せずに気軽に読めるのがいい。ただ,どこに保存したかわからなくなったりするので,自分のド専門の論文などはちゃんと印刷して保管した方がいいかもしれない。ノートアプリでも読めるがフォルダが階層化できないことが多いので,PDF ExpertやGoodReaderなどのPDFビューワーアプリの方がよさそう。
ノートを取る
大学院生になると講義なんてほとんど受けないし,学部生でも色々講義を受けてるとノートやバインダーを複数持ったりするのは面倒。iPadでノートを取ればノートを忘れることもないし(iPadを忘れると無力だけど),配布資料もスキャンしてノートのページの中に入れて書き込むことができるし,講義が終わったら最終的にPDF化してクラウドに上げればいい。色々アプリはあるけど,個人的には書き味の良いNoteshelfがおすすめ。GoodNotesもファンが多い(私は書き味が好きでなかった)。
コメントを入れる
ゼミでの発表資料が配られたらすぐにスキャンしている(学部ゼミについては授業前にPDFでアップロードするというルールにした)。色々書き込んでみたりするけど,どうせ後から読み返すことはほぼないし,もし気になっても探すのも面倒。データで管理すれば探そうと思ってもなんとかなる。また,場合によってはそのデータをそのまま発表者に送ることもできる。後輩の卒論アドバイスにも使ったことがある。論文ドラフトを送ってもらって,書き込んで送り返している。wordのコメント機能より便利だと思う。これも私はNoteshelfを使っています。
本を読む
裁断機で本を裁断してPDF化することがある(いわゆる自炊)。自分でよく使う学術書なんかは裁断しないんだけど,後輩の卒論のアドバイスのために読んだ本などは,どうせもうほとんど読まないので,省スペースのために自炊することがある。また,語学関係の本は大体自炊している。読むためのアプリには,見開き2ページ表示ができてかつ最初の1ページを独立させて表示できる(右ページと左ページが逆になることを防げる)GoodReaderがおすすめ。あと普通にKindleで読むにもiPadは画面がでかくて読みやすい。
辞書を引く
大学院生は翻訳をするときなど辞書を引く場面が多い(そうでなくても私は言葉の意味がわからずよく国語辞典を引く)。物書堂の辞書アプリが圧倒的おすすめ。使い勝手がダントツ。二画面分割で英文PDFと辞書を同時に開ける。iPhoneにも入れられるので,パッと引きたいときはそっち。電子辞書はもう要らない。大学新入生も新しく電子辞書を買う必要はない。iPad Proと物書堂の辞書を買おう。英語以外の言語の辞書も割とそろっている。悩んだらとりあえず「ウィズダム英和・和英辞典」と「大辞林」を購入しておけばOK。その後必要に応じて買い揃えよう。英語以外の言語が必要な人はその言語の辞典,翻訳などで難しい英単語も必要な人は「ランダムハウス英和大辞典」,英語を書く人は「オックスフォードコロケーション辞典」を買い足すとよい。たまにセールをしているので,最低限必要なものだけ買ってしばらく待つというのも手。私は物書堂が英語か日本語の辞典を出したら応援の意味で買うようにしています。物書堂はインフラなので。
スキャンする
大量にスキャンしたり,本を裁断せずにスキャンしたりするには当然専用のスキャナーを使うべきだけど,ハンドアウト数枚をその場でスキャンしたりするにはスキャンアプリを使うのがいい。スキャンアプリからノートアプリに直接送れるし,表示しているノートに差し込んだりできる。Scanner Proがおすすめです。スキャナーはベタにscansnapがいいですよ。
富士通 PFU ドキュメントスキャナー ScanSnap iX1500 (両面読取/ADF/4.3インチタッチパネル/Wi-Fi対応)
- 出版社/メーカー: 富士通
- 発売日: 2018/10/12
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録音する
普通そんなに出番はないのかもしれないが,私の場合は①ゼミ発表,②インタビュー調査で録音機器が必要になる。ゼミ発表では色々アドバイスをもらうわけだけど,ハンドアウト作成で徹夜をしてゼミに来たりした場合,大体話の内容が思い出せない。とりあえず録音しておけば後で聞き返すことができる(自分の声と自分がボコボコにされているのを聞くのが大変おつらいので聞き返さないことも多いけど...)。インタビュー調査では,当然アプリではなく専用のボイスレコーダーを使うが,万が一録音できていなかったら...と思うとインタビューに集中できないので補助でiPadさんにも仕事をしてもらうことが多い。単純な録音ならALON Dictaphoneが使いやすい。Notabilityというアプリは,ノートを取りながら録音ができて,しかも自分の書いた文字を押すとそれを書いたときの音声が流れるという機能がついていて,授業やインタビューなどを後で振り返るのに便利。個人的に書き味が苦手なのでノートアプリとしては使っていませんが,音声メモに簡単にインデックスをつけられるのでめちゃ便利ですよ。
新書・文庫で読む教育社会学ブックリスト
2000年代の終わりから2010年代にかけて,教育社会学に関係する新書が充実した。社会学一般だとどこから入門していいやらという感じである一方,教育社会学については新書だけである程度主要なトピックを押さえられるようになってきたと思う。新書だけ読む新入生ゼミなどもできそう。
そこに文庫も加えて,教育社会学に新書・文庫を通して入門するためのブックリストを作ってみた。人に勧めたりするときのために一度整理しておきたかったのと,コメントをつけることを目的にして読んだ方が勉強になると思ったので。また,公開しておけば,教育(社会)学に関心を持った大学1,2回生や,教育学部の入試で小論文対策が必要な高校生などにも多少は有益な情報になるかもしれない。
大半は一度読んでいるが内容をあまり覚えていないものも多いので,読み直したものからコメントをつけていきたい。思い出したり新たに刊行されたりするたびに追加していくつもり。教育社会学が専門ではない人の著作も教育社会学的なテーマに関係するものであれば入れている。
《教育社会学入門》
苅谷剛彦(1998; 文庫版2005)『学校って何だろう』ちくま文庫
《戦後日本の教育と社会》
木村元(2015)『学校の戦後史』岩波新書
本田由紀(2014)『もじれる社会』ちくま新書
もじれる社会: 戦後日本型循環モデルを超えて (ちくま新書)
- 作者: 本田由紀
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/10/06
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小熊英二(2019)『日本社会のしくみ』
《メリトクラシー・能力観》
中村高康(2018)『暴走する能力主義』ちくま新書
本田由紀(2020)『教育は何を評価してきたのか』
苅谷剛彦(2002)『教育改革の幻想』ちくま新書
小針誠(2018)『アクティブラーニング』講談社現代新書
《教育格差・階層格差・学歴社会》
松岡亮二(2019)『教育格差』ちくま新書
直球タイトル。350ページ超えで新書にしてはかなり分厚い。近年の格差研究を網羅的に扱っており,研究レビューとしても有用だと思う。ただ,230ページくらいまで既存の研究の知見を計量データとともに淡々と提示しており,かつ第2章から第5章まで幼児教育→小学校→中学校→高校と順番に扱っているために同じような話が何度も出てきて読んでいて結構しんどい。新書向きの構成ではないような気がする。ある程度このトピックに馴染みがあると,どこに着目して読み飛ばせばいいのかわかるが,そうでないと読み通すのはつらいかもしれない。初学者は第2章から第5章までは章末のまとめを先に読んで,そこから各章の内容に戻るか,あるいは第6章,第7章に先に進んでしまうのがよいかも。1,2回生で教育格差に関心のある人に勧めるかといわれるとちょっと悩む。
苅谷剛彦(1995)『大衆教育社会のゆくえ』中公新書
戦後日本において,「大衆教育社会」がいかにして成立していったのかを示している。本書の刊行以後,すなわち90年代後半以降になると格差の問題はよく取り上げられるようになったわけだが,それ以前の日本においてなぜ階層問題が等閑視され,学歴社会という視点が主になっていったのかを描いている。第5章の「能力主義的差別教育」についての考察もおもしろい。
大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史 (中公新書)
- 作者: 苅谷剛彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1995/06/24
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苅谷剛彦(2009)『教育と平等』中公新書
吉川徹(2009)『学歴分断社会』ちくま新書
大卒と高卒という学歴の「分断」に焦点を当て,主に階層再生産の話をしている。親の階層と子どもの教育達成と子どもの階層の関係や,大学進学率上昇期と停滞期における学歴再生産の位置づけの違い,他の論者による格差論の解説など,「格差論/研究」論的な性格もあり,入門によいかも。
吉川徹(2018)『日本の分断』光文社新書
日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)
- 作者: 吉川徹
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/04/17
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山田昌弘(2004; 文庫版2007)『希望格差社会』ちくま文庫
希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)
- 作者: 山田昌弘
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/03/01
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《受験》
竹内洋(1991; 文庫版2015) 『立志・苦学・出世』講談社
受験生文化の社会史。明治30年代までの,まだ「受験」という言葉が「試験を受けること」以上の意味を持っていなかった時代を「前受験の時代」,それ以降の,「受験」をめぐる物語や規範が成立するようになった時代を「受験のモダン」,昭和40年代以降,受験が脱「マジ」化してからの時代を「受験の脱モダン」としている。本書の分析は「受験のモダン」,とくに戦前に集中している。受験雑誌や講義録などの受験文化を支えた小道具や,「受験生」としての規範意識などについて社会学的な分析を加えていておもしろい。日本人は受験に対して愛憎入り交じった複雑な感情を持ち,様々な意味づけをしてきたが,本書を除けば受験をめぐる主観的な意味世界を描く研究はほとんどないといえるので,そういう意味で貴重かつパイオニア的な研究。
《公教育》
中澤渉(2018)『日本の公教育』中公新書
寺沢拓敬(2019)『小学校英語のジレンマ』岩波新書
《学校問題・いじめ》
内田良(2015)『教育という病』光文社新書
教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」 (光文社新書)
- 作者: 内田良
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/06/17
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森田洋司(2010)『いじめとは何か』中公新書
内藤朝雄(2009)『いじめの構造』講談社現代新書
土井隆義(2008)『友だち地獄』ちくま新書
《育児・家庭教育》
広田照幸(1999)『日本人のしつけは衰退したか』講談社現代新書
《労働・キャリア教育》
本田由紀(2009)『教育の職業的意義』ちくま新書
本田由紀・内藤朝雄・後藤和智(2006)『「ニート」って言うな!』光文社新書
児美川孝一郎(2013)『キャリア教育のウソ』ちくまプリマー新書
《高等教育》
天野郁夫(2017)『帝国大学』中公新書
《教養文化》
竹内洋(2003)『教養主義の没落』中公新書
教養主義研究の最重要基本文献。 本書が刊行されて以降,教養主義を扱う研究が増加したが,ほぼ必ずといっていいほど本書に言及している。旧制高校と中心としたエリート学生文化としての教養主義の特徴と歴史的変遷を描く。なぜ,いかにして旧制高校や1960年代頃までの大学で教養主義が栄え,「没落」したのかを分析している。秀逸なネーミングと文学作品や自身の実体験をもとにした面白いエピソードが竹内洋の著作の特徴。ただ,面白く読まされるが,章立てが時代順になっておらず,構成も一見してわかりにくいので,そういう本に慣れていないと読み終わった後に「面白かったけど結局何の話だったんだ?」となってしまうかもしれない。
福間良明(2020)『「勤労青年」の教養文化史』岩波新書
佐藤卓己(2008; 文庫版2019)『テレビ的教養』岩波現代文庫
《知識人》
竹内洋(2005)『丸山眞男の時代』中公新書
竹内洋(2012; 文庫版2018)『清水幾太郎の覇権と忘却』中公文庫
《海外の教育》
竹内洋(1993)『パブリック・スクール』講談社現代新書
パブリック・スクール―英国式受験とエリート (講談社現代新書)
- 作者: 竹内洋
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/02
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苅谷剛彦(2004; 文庫版2014)『教育の世紀』ちくま学芸文庫
《子どもの貧困》
阿部彩(2008)『子どもの貧困』岩波新書
阿部彩(2014)『子どもの貧困Ⅱ』岩波新書